INTERVIEW #01 WOODBERRY COFFEE ROASTERS YOGA / SETAGAYA

一杯のコーヒーから、
町がつながるきっかけをめざして

WOODBERRY COFFEE ROASTERS OWNER Musashi Kihara 木原 武蔵

世田谷の用賀駅からほど近い場所にあるWOODBERRY COFFEE ROASTERSは、産地や栽培方法、品種にこだわったスペシャルティコーヒーを提供し、店主である木原武蔵さんがみずから内装に手をかけた居心地の良い空間。アメリカの大学に進学し、多種多様な文化や人々と出会うなかで地元・用賀への想いがよりふくらみ、大学を休学したまま2012年6月にお店を始めた木原さん。「コーヒーをきっかけに、よりよい町をつくりたい」と語る、その原動力と真意を伺いました。

Interview by Yusuke Yamanaka / Naoya Seshimo / Sawaco Ito
Text & Edit by Sawaco Ito
Photo by Masanori Kaneshita

留学中にみつけた、コーヒー屋さんとしての“役割”

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アメリカに留学中に、地元・用賀でお店を開こうと決めたんですよね。
木原
わりとすぐ日本に帰りたいと思いました(笑)。留学生として日々を過ごしていると、日本のことを再発見することも多く、帰国したい意志はおのずと固まっていきました。用賀は地元だから大好きな町ですが、もっとこう、おしゃれな町にしたい。「ライフスタイルの向上」というと簡単ですが、「衣・食・住」にまつわることを、より良いものにしたいんです。「高級志向」という意味ではなく、食べるものをきちんと選ぶとか、一杯のコーヒーを楽しめるとか、治安もよくて和やかな町であるとか…、そういうことです。
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WOODBERRY COFFEE ROASTERSのお客さんどんな方が多いですか?
木原
感度が高いというか…変な人が多いですね(笑)! 自営業だとか、自由な仕事の方とか、コーヒー好きの方が集ってくださっていて、この店自体が交流の場になってきています。あと、高校までの同級生たちが「この店に来れば誰かに会える」と来てくれて、プチ同窓会みたいな状態がよくあったりして。そういうのが合わさって、どんどん輪が広がっている実感があります。あと僕は情報通なので(笑)、「新しいパン屋さんができたよ」とか「あの物件が空いたらしいよ」とかお知らせしたり、ここではとにかく一日中喋っています。
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お店をつくる際に、敢えてコーヒーに特化した理由はありますか?
木原
「ご飯が食べられるカフェ」って、東京にはいっぱいありますが、僕は逆にそれがちょっと変わっていると思っていて。学生時代を過ごしていたアメリカは、カフェでコーヒーを飲むのがスタンダードで、その場合のカフェとはコーヒー専門店であることが多かったんです。そういうお店に、ニューヨークで遊んでいたときに出会って、しっくりきたんですよね。
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日本でいう「喫茶」に近いイメージだったんですね。ここでゆったりとした時間を過ごして欲しいというような願いが、お店づくりから伝わってくるような気がします。初めて訪れたときから、とても居心地がよかったです。
木原
ありがとうございます。僕は用賀というコミュニティの中で、コーヒー屋さんとして担っていきたい役割があって。起業するに至った原動力である「用賀をよりよい町にしたい」という想いを実現するため、じゃあ自分は何をするのか、何ができるのかを考えたとき、コーヒーを提供することで町の人たちとコミュニケーションをとることから始めようと思いました。アメリカは色んな人種の方が居て、年齢が違えば肌の色も違う。多様性の文化に触れたことで、ストレートに物事が運ぶのが大事ではないと思ったし、失敗してもいいからとにかくチャレンジしたくなったんですよね。

コーヒーをノンストレスで楽しめること

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コーヒーを淹れているときや、提供するときに木原さんが心がけていることはありますか?
木原
ノンストレスなサービスを心がけています。究極にいうと、飲みたいものがちゃんと出てくるということ。つまりお客さんの希望に対して僕がした説明と、提供したコーヒーのテイストがきちんと合うことです。とくに初めてのお客さんとはじっくり会話をして…オーダーまでめっちゃ時間がかかってますが(笑)。
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ビジネス的な観点からだと効率悪く考えられがちですが、それを度外視してサービスする空間を大事にしているんですね。
木原
いまや挽きたてのコーヒーはコンビニでも買えるから、うちで扱っているスペシャルティコーヒーの面白さも、きちんと伝えないと伝わらないじゃないですか。だからこそ、ここに訪れてくれた方としっかりコミュニケーションをとりたい。相手の雰囲気に合わせて、カッチリした方にはカッチリした説明を、カジュアルな方にはフランクな言い方をしてみたりして、それぞれにとって伝わりやすい言い方を心がけています。
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開店当初は自家焙煎ではなかったけれど、自分で焙煎するようになったのも、そういった想いからでしょうか。
木原
そうですね、責任をもって応えていきたいから、最終的には豆も自分で育てたいですね…。育てたい…。手始めにこの春から、教えてもらいながら野菜づくりをすることにしたんです。いずれはコーヒーを育てるつもりです。

WOODBERRY的、「日曜日の夕方5時」

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この「SUNDAY 5pm」のコンセプトである「日曜日の夕方5時」という時間帯は、一般的に、休みの終わりのにおいがしてきて…。「明日から仕事か…」とちょっと憂鬱になりがちで、しぶしぶ休日のオフ状態からオンに切り替える準備を始めると思うのですが、木原さんはそんなとき、どんな風に切り替えていますか?
木原
僕は朝店に来るまでの間で、自然とオンになります。自転車をこぎながら、「今日は寒いな」とか「湿度が高いな」とか「雲が多いな」とか、風を感じながら仕事モードになっていく。焙煎や抽出は、温度や湿度の変化に影響を受けやすいので、それらを全部データに起こして、それをもとにその日にあったやり方で焙煎します。歩きだとダメなんです、これは自転車じゃないとまた違ってしまう。そうやって朝の通勤時間に風を肌で感じながら、すでに仕事が始まっているんです。
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自然だ…。
木原
だから自転車で通勤することがオンへの切り替えになっていますね。それから、「仕事に行きたくない」と思うことも殆どないです。もちろんコーヒーを淹れることが僕の仕事でありつつ、お客さんとのおしゃべりがメインだと思っていて、「今朝もあの人が来てくれるだろうから、さあ、行くか」って、人に会うために毎日店を開けています。
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朝のお客さんは、このお店の一杯のコーヒーから一日が始まっているわけですよね。では「日曜日の夕方5時」に、休日のしめくくりに訪れるお客さんには、どんな一杯を提供したいですか?
木原
常連さんで、職場が用賀にある方がいるんですが、帰りの電車に乗る前にここでコーヒーを飲んで、帰り道で残り香を楽しんでいるそうなんです。残り香を感じて、心があったまったりして、一日の終わりや休日の終わりに、いい匂いをまとって家路に着くというのは、とても素敵じゃないでしょうか。コーヒーの香りは本当に不思議で、特にスペシャルティコーヒーはフルーツとかお花とか、白ワインとかナッツとか、コーヒーなのにそんな風に例えられて、飲んだ後に本当にふわっとその香りがよぎる。たまらないですよね。

“ファスト”になっていた生活習慣を、“スロー”へと見直していく

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仕事をしているなかで、やっていてよかったとか、単純にテンションがあがるできごとってありますか?
木原
自分の予想以上のコーヒーができたときですね。あと僕は、カウンター越しの接客が好きで。カウンターがあることで、お客さんと話すことができるというか…カウンターがなかったら僕はコミュ障です(笑)。魔法のステージに立って、この役割を演じている感じはあります。
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最後に、今後の展望や野望はありますか?
木原
僕はなるべく自然のものを摂りたいと思っています。僕等の世代は、小さい頃からファストフードが当たり前にあって、添加物とか化学調味料とかもたくさん摂っていて。でもこれからは、スローフードに向かって行きたい。この地域から、少しずつ色んなひとを巻き込んで進めたくて、その一環でコーヒーもあるし、自然派ワインとかパン屋さんとか、美味しいものを広めていきたいですね。昔の音楽を改めて聴き込んでみたり、生演奏を楽しんでみたりということも、少しずつ見直していきたいです。
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ちなみにショーケースにある、魅力的すぎる焼き菓子たちは、どなたがつくっているのですか?
木原
僕です。けっこう評判がよくて、「マフィンがおいしい店の人ですよね?」って言われることがあります(笑)。パンづくりにも興味があって、教科書を読み込んでいるところです。(笑)。
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コーヒーはいろんな楽しみ方があって、コーヒー好きにとっては豆を選んで一杯をじっくり楽しむことはとても気軽ですが、一方で、インスタントコーヒーが当たり前な方には、敷居が高く感じられがちな側面も。
木原
単純に良さを知らない方が沢山いると思うから、知ってもらえたらいいなあと願っています。東京で続けていくにはビジネスにしないと難しいから「ファスト」になってしまいがちだけど、だからこそここにあるものはすべて手をかけて、それを自分の手でお客さんに手渡しすることを、これからも大事にしていきたいです。

INFORMATION

WOODBERRY COFFEE ROASTERS

〒158-0096 東京都世田谷区玉川台2-22-17 スプリングヒルズ1F
TEL. 03-6447-9218
営業時間 10:00 ~ 19:00
東急田園都市線用賀駅南口より徒歩1分
http://woodberrycoffee.com

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エチオピア/イルガチェフェ

フローラルなお花や紅茶を思わせる香り、ピーチやマスカットのような果実感でスパイシーな印象で、後味にはイルガチェフェ特有のお花の香りが口いっぱいに残ります。「会社帰りにこの一杯を飲んで電車の中で残り香を楽しんでいる」という常連の方のように、余韻とともに過ごす時間も楽しんでほしい。残り香をまといながら休日を終えるというのも、素敵ですよ。

EDITOR'S POST

普段は和やかな雰囲気の木原さんが、ふとした瞬間に覗かせる芯の強さのようなものが何なのか、ずっと気になっていました。
インタビューを通して語っていた「衣食住を豊かに」「店のアイテムのほとんどは自分の手から」という言葉の中に、クオリティーに対する意識の高さが伺えて、焙煎や抽出のひとつひとつから、そのこだわりに対する人並み以上の努力と探求心が顔を見せていました。
あぁ、この人の強さは、自分が納得をするために惜しみなく費やした時間なのだなと感じ、まだまだいくつもの素敵な野望を抱く木原さんを、これからも追い続けたいと思ったのでした。
by Naoya Seshimo