INTERVIEW #05 SWITCH COFFEE TOKYO MEGURO / TOKYO

暮らしを美味しく楽しむために伝えたいシンプルな想い

SWITCH COFFEE TOKYO Executive Director Onishi Masahiro 大西正紘

駅から目黒通りを西に進み、目黒川にかかる橋の手前で右折して住宅街へ。中心部から離れ、町の暮らしに溶け込むように、SWITCH COFFEE TOKYOはあります。厳選したコーヒー豆を扱いながらも、代表の大西さんがまず伝えたいのは、「おいしい」という単純なこと。シンプルなお店づくりに秘められたまっすぐなその想いを聞かせていただきました。

Interview by Naoya Seshimo / Yusuke Yamanaka / Sawaco Ito
Text & Edit by Sawaco Ito
Photo by Masanori Kaneshita

この道を進むことに決めた出会い

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大学生のときにアルバイトでコーヒーの世界に入ったことが始まりだったんですね。
大西正紘
(以下、大西)
当時まだ数少なかった、エスプレッソマシンがあるお店で働いていました。出身は名古屋ですが、東京に進学して、両親は大学を卒業したらちゃんとした企業に勤めてほしかったと思いますが(笑)、渋谷のカフェに正社員として就職しました。両親を説得するためにラテアート大会に出場したりして(「BLENZブレンズラテアート選手権2009」にて優勝)、晴れてカフェで働き始めたものの、少ししてからそのお店の業態がガラリと変わることになったんです。どうしようかなあ…と思っていたときに、何度かお会いすることがあった、メルボルンでバリスタなどをされている石渡俊行さんに、「オーストラリアはいいカフェが増えているし、これだけちゃんとコーヒーを作れるならいい経験ができるんじゃない?」と言っていただいたことがきっかけでオーストラリアに行く選択肢がうまれて。それからとりあえずビザだけ取って、ワーキングホリデーで行くことを決めました。
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メルボルンで働き始めてから気づいた、日本との違いはありましたか?
大西
それまでも海外に行く機会はあったので、想像の範囲内ではあったんですけど、向こうはだいたいどこで飲んでも美味しいんですよね。平均して淹れるのが上手い。自分自身の仕事でいうと、とにかく淹れる量が多かったです。よく言われたのは「安定感が大事」ということで、ドリンクを3杯出すとしたら、その3杯にムラがあってはいけない。「1杯ずつていねいに」ではなく、とにかく次々と数をこなしていかなくてはならないし、その全ての品質を高く保たなくてはいけないという世界です。日本人はまじめだってよく言うけど、外国人もすごくまじめでした。もちろん、カジュアルでかしこまったりはしないんだけど、勤務態度だったりコーヒーに対する姿勢みたいなのは恐ろしいほど厳しかったですね。
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日本に戻ってから、今度は福岡へ。これはどういう経緯だったんですか?
大西
自分のお店を開きたいとは思っていて、最終的には焙煎もするつもりだけど、業態でまだ迷いがあったんですよね。まずは日本でコーヒー屋さんとしてちゃんとやっている人のところで働きたいと思い、ご縁があってダイレクトトレードでコーヒーを輸入している自家焙煎店の「ハニー珈琲」で働けることになりました。

町に暮らす人の生活の一部に

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名古屋、渋谷、メルボルン、福岡と渡り歩き、自分のお店を開く場所としてなぜ目黒を選んだのでしょうか。
大西
大学で東京に出て来てから、働くのも遊ぶのも東京だったので愛着もあったし、漠然と商売をするなら東京でと思っていました。福岡という選択肢もあったかもしれないけど、育ててくれたお店のそばではないところで勝負したかったんです。僕の中では東京イコール渋谷で、渋谷を中心に住宅街に目を向けることにしました。
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渋谷の中心部ではなくて、あえて住宅街を選んだんですね。
大西
福岡で勤めていたハニー珈琲は、少し奥まった変な場所にあったんですけど、メインのニーズはドリンクよりも豆だったんです。だから「住宅街で豆を販売する」という構図が頭にありました。休日に家でコーヒーを飲もうとしたけど豆がない、というとき、なかなか渋谷まで買いに出たくないじゃないですか(笑)。豆は日用品だからこそ、家の近所で買うという利用をしてもらいたいと思いました。わざわざ遠くまで買いに行くんじゃなくて、「近所にあるから行ってみたら美味しかったし、生活に楽しみが増えてラッキー」くらいに思えてもらえたらいいなと。
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ここは入り口が全部開放されているので、明るくて風通しもよくて。通りすがりに中をパッとのぞいたら、そのときに入らなくてもすごく気になる場所だと思いました。
大西
地域の人にとっては新参者でしかないので、変に閉鎖的にならず、「仲間に入れてください」という気持ちです。極端ですけど、例えば僕がものすごい世界チャンピオンで、日々イベントを開催して、外の地域からコーヒーマニアやたくさんの人が集ってきて…みたいなことになった場合、近所の人にとっては決して気持ちのいいことではないと思うんですよ。もちろんエリア外からわざわざ来てくれるのは本当に嬉しいことですが、まずは近所の人にとって「ここは美味しいコーヒーが飲める場所」として定着したいですね。そういう人が増えることが、最終的には自分たちの業界にとってもいいことだと思うし。

肩肘張らずに楽しめる場所であるために

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肩肘張らずに楽しめるということは意外と難しく、とても重要なことですよね。
大西
開店当初はいわゆるコーヒーが好きで、早耳な方々に次々とお越しいただいていたんですが、今ではほとんどがご近所の方です。おじいちゃんおばあちゃんも子どもも犬も来てくれる感じがすごく嬉しいですね。もちろん、まだ見ぬご近所さんもいらっしゃるはずですが、「まだ入ったことないけど、なんかいい雰囲気だよね。いつか行ってみよう」と思ってもらえていたらいいなあと思います。
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大西さんはとても飄々としている印象があるんですが、お話しの端々で熱い想いを感じます。お店の内装や、パッケージデザインなどもご担当されているそうですが、そこまで自分でやるというこだわりの理由はありますか?
大西
僕はサービスもコーヒーも、「難しいことは言わない」と決めています。まずざっくり言ってここはコーヒー屋、そして豆屋で、店内に椅子を置かないのはカフェじゃなくて豆屋だからです。パッケージは色を分けてわかりやすくしているんですが、二度目に買いにきたときに銘柄を100%覚えている人ってなかなかいないんですよ(笑)。豆を選ぶときも、産地がどうとかはいったん置いといて、好みを伺ったり試飲していただいたりしながら、気に入ったものに出会って欲しいと思っています。
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直感で感じたことを大事にして選んでもらいたい。
大西
お店の名前も同じで、いろいろと悩んだんですが、候補に「Switch」が出たときに、パッといいなって思ったんです。生活で使っている様々なものにはスイッチがついているから、「スイッチ」という言葉は老若男女になじみがある。イートインのメニューにしてもとても単純で、ブラックかミルク入りかだけです。実際、「カフェラテ」といった具体的な注文よりも、ふんわりと「なんかコーヒーちょうだい」っておっしゃるお客さんが多いんですよ。たいがいは牛乳を入れるか入れないかくらいは決まっているので、「牛乳を入れる」とおっしゃったら問答無用でカフェラテをお出ししているんですけど(笑)。カフェラテとカフェオレの違いを啓蒙することが僕たちの仕事ではないし、「あそこのコーヒー牛乳は美味しい」と感じてもらえたらそれでいいんですよね。

SWITCH COFFEE TOKYO的「日曜夕方5時」の1杯

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日曜の夕方5時に飲むオススメの1杯はエスプレッソとのことですが、実はメニュー表に記載がありません。
大西
単価が低いところに目がいって、わからずにオーダーしてしまう方がいたり、ややこしかったりして。だからあえて書かないけど、好きな人は何も見ずに注文する、そんな飲み物なんですが、僕自身がとても好きなので、メルボルンに居たときや他のお店でもよく注文しています。たとえばイタリア育ちでの方に言わせると、エスプレッソマシンから出てきても「これはエスプレッソじゃない」ということがあるそうなんですよ。うちでも、スペシャルティコーヒーを扱っている店だからといって飲み口がサラッとしていたり、酸味が強かったり…なんていうのではなく、とにかく淹れ方に忠実になること、それをいちばん大事にしています。イタリアのエスプレッソ好きにも自信を持っておすすめできますね。休日に、普段飲まない方でもエスプレッソの香りを楽しんでいただけたらと思います。
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大西さんは休日と平日のオンオフをきっちり分けている方ですか?
大西
僕も相方の竹日(渉)さんも丸一日休む日を作るようにしているんですが、僕は家のことをしたり、事務作業をすることが多いですね。僕は一人暮らしなので、ふだん家と店の往復だけでは主に竹日さんと話すだけという単調な生活になってしまいます(笑)。だからなるべく仕事を終えたら飲みにでかけるようにしています。極端な例えですが、睡眠時間を8時間とるよりも、5時間にして外で3時間飲む方が元気だったりするんですよ。異業種の仲間たちと情報交換をしたり、どうしようもない話で笑ったりすることで、ほぼ毎日頭の切り替えが出来ています。だから夕方はお酒が飲みたくなる頃なので、本当は…(笑)。

いちばん伝えたい、シンプルで大事なこと

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わかります(笑)。大西さんの考えは「コーヒーを飲む」ということの基本に立ち返っているというか、東京のスペシャルティコーヒーを扱うお店のなかでも際立って潔く感じました。
大西
そもそも僕らは「美味しいから飲んでもらいたい」ということが始まりですよね。目黒はあまりコーヒー屋さんがないですが、駅前にはチェーン店もあるなかでどうやったらうちを選んでもらえるのか。「スペシャルティコーヒーがあるから」ではなく、とりあえず「あそこは美味しい」とか「なんか感じがいい」って思ってもらうことが第一で、興味があれば、「あなたたちのところはどうして美味しいの?」と、詳しい情報を知ってくれるようになったらいいなと思っています。ハニー珈琲のオーナーは、買い付けの際に味を見るセンスが本当に素晴らしいんですが、お客さんに対しては「これ美味しいから飲んでみて!」っていう軽い感じだったんです(笑)。なぜそれが美味しいのかを言葉で理解しているお客さんは少ないかもしれないけれど、それでもいいんですよね。僕はどちらかといえばマニアックな性格だから、説明したいこともいっぱいあるんですけど、それはまた別の話しで(笑)。
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あえてひけらかすものではない、というか。
大西
プロフェッショナルってそういうものですよね。今はコーヒーブームと言われて難しいことを知っているのがすごいみたいな風潮もあるけど、基本的にやっていることは、いいものを仕入れて美味しい状態で出すということで、八百屋さんやお寿司屋さんとかと同じ。僕の仕事は仕入れと出せる状態にすることで、僕が魔法をかけているわけではないし、いいものを仕入れようとするのは、商品を扱っているうえでは当然のことで。それをかしこまって出したいのか、カジュアルにしたいのかは店主しだいで、前者は他の方に任せて、僕は気軽に楽しんでいただけたらと思っています。
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ちなみに、豆の卸をメインされているわけではないけれど、渋谷のABOUT LIFE COFFEE BREWERSに豆を置かれていますよね。
大西
うちのコーヒーを気に入ってくれた人に売りたいと思っているので、他店への卸に力を入れているわけではないです。大手のように単価を低くできないし、高いということがわかったうえで選んでくれる人に買ってもらいたい。なにより自分の目が届く、足りないものがあったらすぐ届けられる範囲でやりたくて。ABOUT LIFE COFFEE BREWERSは坂尾さんに仲良くしてもらっていて、彼がどういうコンセプトでやっているかを知っているからお願いすることにしました。ABOUT LIFE COFFEE BREWERSで知って、こちらに来てくださるお客さんもいて、嬉しいですね。
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2年目が始まり、改めて挑戦したいことや目標はありますか?
大西
挑戦したいことは、欲を言えばいくらでもあるけれど、まずはこういうコーヒーを飲みなれてない人たちに知ってもらいたい。コーヒー好きではない、カフェ巡りをしない、「サードウェーブってなに?」という人にも飲んでもらえるように、気楽に来てもらえるようにしていきたいですね。コーヒーの淹れ方教室も希望があったときに開催しているんですが、もしご用命があればイベントなどにも足を運びたいと思っていますし、二人だからこそ、フットワーク軽くやっていきたいです。

INFORMATION

SWITCH COFFEE TOKYO

〒153-0063 東京都目黒区目黒 1-17-23 [MAP]
TEL: 03-6420-3633
営業時間: 10:00〜19:00
http://www.switchcoffeetokyo.com/

RECOMMENDED

エスプレッソ

スペシャルティコーヒーを扱っているからといって、飲み口がサラッとしていたり、酸味が強かったり…なんていうのではなく、とにかく淹れ方に忠実になることを大事にしていて、イタリアのエスプレッソ好きにも自信を持っておすすめできる一杯です。僕自身エスプレッソが好きで、メルボルンで飲んで美味しいと感じたものをイメージしています。コーヒーの香りを楽しむのに最適です。

EDITOR'S POST

もう9年ほど前でしょうか。福岡のカフェウィークというイベントを目的に福岡へ赴いた際、ふらっと立ち寄ったハニー珈琲さん。確かに、「美味しいから飲んで!」と気さくな親父さんがケニアのコーヒーを出してくれました。肩肘を張らずに、地域の人々がコーヒーを買いに来るそんなお店には、私たち顧客にとってのシンプルさがありました。
今回、取材を通して改めて感じたことは、私たち「顧客に対してシンプルなお店」という魅力。よくよく考えてみると、よく見かける簡素なインテリアやデザインは、実は顧客にとってのわかりやすさとはイコールではないということ。ストレートコーヒーかミルク入りか。何色の豆を買ったか。次行くときも、なんとなくで大丈夫。そんな気軽さと安心感がSWITCH COFFEEのシンプルさであり、魅力だと感じました。
by Naoya Seshimo