INTERVIEW #04 ONIBUS COFFEE OKUSAWA / SETAGAYA

“たった数分間”が人生で最良の豊かなひとときになるために

ONIBUS COFFEE OWNER Sakao Atsushi 坂尾篤史

奥沢駅を出てすぐ、または自由が丘駅から散歩気分で行ける場所に、ONIBUS COFFEEはあります。今年5月には渋谷・道玄坂にABOUT LIFE COFFEE BREWERSをオープンし、邁進し続けるオーナーの坂尾篤史さん。手渡しのコミュニケーションを大事にしながら、私たちに“美味しいコーヒー”との出会いを通した豊かな毎日を提案してくれる坂尾さんに、お話を伺いました。

Interview by Naoya Seshimo / Sawaco Ito
Text & Edit by Sawaco Ito
Photo by Masanori Kaneshita

オーストラリアで出会った運命の“カフェ”文化

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坂尾さんがコーヒーの道に進むきっかけは海外で得たそうですね。
坂尾篤史
(以下、坂尾)
東京で仕事を辞めてから、地元に帰って大工をしていた時期があったんですが、田舎の生活に物足りなさを感じていた頃に東京に戻るかどうか悩んでいて。僕は千葉県の銚子市の出身なのですが、高校生くらいのときにオーストラリア人のバックパッカーグループが地元にやってきたことがあったんです。彼らは世界中をまわってアジア方面から日本を縦断しに来たそうなんですが、日本は狭いからヒッチハイクでいけるとか言っていて(笑)。スケールが違うことの衝撃を受けたというか、「男は一度はバックパッカーに行かねば!」って焼き付けられましたね。それを思い出し、今だ!とすぐに計画をして、沢木耕太郎(『深夜特急』シリーズなど)を読んでから感化されるままに出国しました。
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思い切りましたね(笑)。
坂尾
僕は海外に行ったことがなかったので、とりあえず慣れるためにもオーストラリアに渡ってから語学学校に入りました。オーストラリアから東南アジア、インド、バングラディッシュ、ネパール、チベットなど、アジア圏をまわったんですが、オーストラリアに居た時間が一番長かったです。オーストラリアのホームステイ先でドイツの人がシェアメイトだったんですが、彼は遅刻しようがなんだろうが、毎日カフェでコーヒーを1杯飲んでから学校に行っていたんです。当時の日本は「カフェに行くのがおしゃれ」という時代だったので、自然に毎日使いしていることがすごくかっこよく感じたし、そもそもそのコーヒーが知っていた味とまったく違ったんです。そんな出会いがきっかけになって、帰国したらカフェを開きたいと思うようになりました。
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帰国後は新宿にある「ポールバセット」でバリスタとして働かれていたんですよね。
坂尾
僕が想像していたのはオーストラリアのカフェだったので、エスプレッソマシーンがある環境を探しました。アルバイトとして入社した時点で、カフェなのか焙煎所なのかわからないけど、3年後には何かしらの形で自分の店を持つと心に決めていました。僕はバリスタをやっていたんですが、満足いくエスプレッソが淹れられないと、バリスタは焙煎のせいにしてしまいがちなんですよね。だから美味しいコーヒーを提供したいなら焙煎をしなくてはと思い、その後ロースターを立ち上げることにしました。

誰よりも強いクオリティマインド

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1杯のコーヒーのクオリティに対して責任を負いたかった?
坂尾
そうですね。その当時は今みたいにコーヒー屋さんが全然なくて、僕はなぜか「エスプレッソは絶対に負けない」と自信がありました。豆を卸で買って、色んなお店の豆を飲み比べたんですが、なかなか納得の味が作れなくて。でも、自分が焙煎したわけじゃないから、どうしてこの味になるのかが説明できない。そこで、誰かが勧めているやり方や海外で流行っている方法など、小ロットの豆で納得できるまで自分で焼いて試しました。とても勉強になりましたね。
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坂尾さんは焙煎も抽出も、とにかくクオリティマインドが誰よりも強いと感じます。
坂尾
僕は負けず嫌いなんです。負けたくない。元々大工をやっていたから職人気質だし、焙煎やエスプレッソやコーヒーも重なる部分があって、性に合っているのだと思います。例えばクオリティを下げて利益を上げるとか、日本に合う抽出をしようとは思わないし、仮にそれで豆を買う人が増えたとしても、それは自分のテンションが上がることではないんです。今仲間たちと話すのは、「やりたいことをやろう。やりたくないことはしないで、他のことで利益を出すことを考えよう」ということ。いちばん大事なのは、誰にも負けない美味しいコーヒーを作ることで、それを守りたいですね。
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バックパッカーに出たときのエピソードからも感じますが、坂尾さんは思い切りがよくて志が高いですよね。
坂尾
準備をして先が見えるのが好きじゃないんです。旅には「お金がないし、言葉も通じないけど、世界に出たい!」というノリで行きたいし、困りたかった(笑)。やるしかない状態に追い込まれたときに見えるものが見たいというか。ONIBUSを始めたときもそれに近い状態でした。帰国後の2年半は仕事しかしていなかったので東京に知り合いもできず、頼れる人も居なかったけど、それでもできるという確信がありました。

人とつながること、人と人とをつなげること

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今は海外からのお客さんも多いと伺っていますし、彼らとも密に情報交換をするなど、出会った人とつながることをとても大事にされていますよね。
坂尾
ONIBUSのコンセプトが「人と人とをつなげる」ということで、だからこそ自分たちも率先してつながっていこうと思っています。この狭い場所から、飲食やコーヒーに関係しないひとたちとも深く関わろうとしていて、最近は農家の方や物づくりをしている方と話すとテンションが上がりますね。
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今年はグァテマラやコスタリカの農園に視察に行かれていますが、そこでどんなことを感じましたか?
坂尾
現場を見せていただいたことで、より素材に対して責任を持ちたいと思いました。バリスタって、ラテアートの練習や、調整のために何杯も落としたり、捨てることに麻痺していまいがちで。コーヒーだけじゃなく、普段の自分たちの生活のなかでも消費することに慣れてしまっている。でも農家ではパルプの部分も肥料に利用したり、グレードの低いものはB級、さらに低いものは国内消費と、自分たちで無駄なく使っていて…。それなのに僕らが無駄にしてしまっているという現実を痛感し、意識が変わりました。
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スペシャルティコーヒーは、まさに選別して選別して出来上がったものですからね。
坂尾
僕らは豆を浪費しないだけでなく、たとえば添加物が入った食べ物を食べないようにするとか、そういったところから気を配らないといけないと改めて思いました。視察に行く前から生産について知ってはいたけど、実際に選別の過程を見ると新たな発見や驚きがあって楽しかったです。

1杯のコーヒーが提供できる至高の時間

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ところで、今年5月にはABOUT LIFE COFFEE BREWERSをオープンされ、渋谷に新しい文化発信地が生まれました。渋谷に注目した理由はありますか?
坂尾
もっと美味しいコーヒーを広めたいなら人が集る場所がいいし、それなら発進力もある渋谷が適していると思いました。ABOUT LIFEがある場所は奥沢と土地柄が異なり、オフィス街だからこその常連の方が出来たりして、彼らの生活リズムに加われているので、そういった「日常にとけ込む」という根本的なところは、奥沢とも変わらないと思っています。
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東京のコーヒーシーンはまだまだ過渡期にあると感じていますが、坂尾さんが描くビジョンはありますか?
坂尾
まずは美味しいコーヒーが飲める環境を作りたいですね。今の時代のニーズとして、生活を見直そうという風潮からライフスタイルやカルチャーのショップが流行っているなかで、僕らが出来ることはコーヒーを渡して飲み終わるまでのほんの何分間に限られています。その1杯の素材に透明性があって、目の前でちゃんと淹れて提供すること。それを飲んでホッとする時間というのは、とても意味があると思うんです。少しでも、「この人が淹れてくれたから美味しいな」「ホッとするな」「この1杯があるから仕事頑張れるな」と思ってもらえる体験を広めていきたいです。
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確かに、日常で手渡しのやりとりが減っていたり、仕事に没頭して周りが見えなくなってしまうことが多いなかで、ハッとして何かを思い出す気がします。
坂尾
そうなっていけるといいですね。オーストラリアって自分たちの生活がいちばんで、仕事は二番以降なんですよね。彼らは遊び方も上手いし、アクティブだし、よく旅に出かける。そうやって自分たちの生活に寄ってみると、コーヒーだけじゃなく、生活を大事にする意識がもっと発達していくんじゃないかと思うんです。ABOUT LIFEで他店の豆の販売をしているのは、新たな出会いのきっかけになればという想いからです。たとえば平日はABOUT LIFE、休日は新しいカフェを探しに行くといった習慣が生まれたらとても嬉しいことですよね。
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コーヒーを広める活動の一貫として、坂尾さんは熊本や高知など地方でもワークショップをされています。とにかくフットワークが軽い!
坂尾
地方の方々とも積極的に関わりを持つようにしています。ワークショップをするコーヒー屋さんが直接の知り合いというわけではなく、現地をよく知る友人を介して紹介してもらうことが多いです。ワークショップは地方に行くための口実でもあります(笑)。
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それもまた「旅」のひとつですね。
坂尾
近いものがありますね。東京で仕事をしているとほとんど休みはないし、広げていくためにもやらないといけないことがいっぱいあるから、旅行になんて行ける状況じゃないんですけど、出て行くと人とつながることができる。それが僕にとって大事なインプットの時間になるんです。土地ごとにライフスタイルが違うし、呼んでくださる方々がその土地の面白い人たちを沢山紹介してくれるのがとてもありがたいです。
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坂尾さんは「コーヒー」や「東京」にとらわれていないですよね。
坂尾
お店を始めて1年目の頃、とくに夏はコーヒーが飲まれないから、めちゃくちゃ暇で(笑)。その間にマーケティングや飲食店の経営セミナーなどに沢山参加しました。あるセミナーで、「自分たちの生活を見つめ直して、ひとつのことにとらわれず、何かから脱して自分たちの道をつくっていこう」という話しを聞いて、確かにそうだよなと思ったんですよね。コーヒーだとか、奥沢の一角とか、そういう限定を全部取っ払って、僕はコーヒーを武器にしながら色んな人たちと関われば、色んなことができるっていうマインドに切り替わったんです。

ONIBUS COFFEE的「日曜夕方5時」と、強く抱く信念

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それでは、坂尾さんがおすすめする、日曜日の夕方5時に合う1杯を教えてください。
坂尾
今だと、コスタリカのエルピロンがおすすめです。今年に現地を訪れた際に買い付けたのですが、ジューシーでフルーティな味わいを愉しんでもらえたらと思います。
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ABOUT LIFEを始めて、坂尾さんはきっとこれからも色んな取り組みをされていくと思いますが、目標としていることはありますか?
坂尾
まずはABOUT LIFEを定番化して日常使いしてもらえるように育てたいです。コーヒーを広めたいという目標はとにかく果てしないことなので、目標への過程がその都度更新されたり、選択肢が増えることはあると思いますが、目標自体はずっと変わらないと思います。ONIBUSとしては、浅煎りで風味が激しく強いものをもっと広めたいと思っています。
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浅煎りに注目するのは、素材が良いスペシャルティコーヒーならではですよね。
坂尾
苦さは素材の味ではなく、人が後付けした味なんですよね。いいお魚って刺身で食べたいし、A5のお肉はレアで食べてみたいじゃないですか(笑)。好みはそれぞれだけど素材を楽しむためにすごく自然なことで、浅煎りの美味しさや違いを認知してもらいたいです。
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ただ実際の日本のコーヒーシーンは、その素材のよさに依存して、まだまだ安易な感じから抜けられていない印象もあります。
坂尾
イタリアンやフレンチのシェフやパティシエって、超職人気質でとことん突き詰めようとしているから、芸術作品と言えるまでの味が出ると思うんです。コーヒーにおいても同じことで、自分のお店を持っているのにそうしないのは矛盾しているし、僕はやる側の責任のひとつとして、突き詰めないといけないと思っています。やっている僕たち自身がもっと意識を高く持って、ちゃんとサービスをして美味しいコーヒーを提供し続けること。そして、社会のなかで、バリスタという仕事が職業として成り立つように環境をつくっていきたいし、これからも誇りを持っていきたいと思っています。

INFORMATION

ONIBUS COFFEE

〒158-0083 東京都世田谷区奥沢5-1-4 [MAP]
TEL: 03-6321-3283
FAX: 03-6321-3283
営業時間: 9:00〜19:00
定休日: 火曜日
http://onibuscoffee.com/

RECOMMENDED

コスタリカ/エルピロン

オーナーの坂尾さんが今年、コスタリカを訪問した際に買い付けてきたこのコーヒーは、コーヒー由来の甘さを引き出すためにコスタリカでは珍しく、果肉を付けたまま天日で乾燥させた「ナチュラル」という生産処理で作られます。私たちが飲むコーヒーが言葉通り果実であったことを、チェリーのようにフルーティな味わいが思い出させてくれました。熟度の高い赤ワインのようなフレーバーと、キャラメルのような甘い余韻を愉しんでください。
ONIBUS COFFEEで出会ったコーヒーは、どれもジューシーで、優雅に時間を彩ってくれました。

EDITOR'S POST

長いインタビューのなかで見えてきたものは、坂尾さんは“誰にも似ていない”ということ。歩んだ道の1分1秒がコーヒーに昇華され、ときに職人のように技術を磨き、心を研ぎ澄ます。ときにはメディアができないほど、海外のロースターや農園の情報を伝え広める。決して自身の店舗だけの世界でなく、私たちがコーヒーのある生活をもっとイメージできるように。美味しいコーヒーを自然に味わえるように。そうして私たちのコーヒーライフをディレクションしてくれている姿をカッコイイなと感じました。そして、私たちが毎日どこでも美味しいコーヒーを楽しめるように想い、努力してくれていることがたまらなく嬉しく、コーヒーがまた好きになりました。
by Naoya Seshimo