INTERVIEW #03 OBSCURA COFFEE ROASTERS SANGENJAYA / SETAGAYA

日常に寄り添う“圏外”への誘い

OBSCURA COFFEE ROASTERS OWNER Shiba Yoshinori 柴 佳範

世田谷・三軒茶屋駅から栄通り商店街を抜けた、住宅街の入り口。町の人の日常に寄り添う場所にCafe Obscuraがオープンしたのは5年前。駅を挟んで反対側、下北沢方面まで続く茶沢通り沿いには焙煎機を構えたLaboratoryとFactory、そして昨年9月、神田の万世橋駅跡地が生まれ変わった商業施設の一角、れんが造りの高架下にCafeが加わり、今では4店舗。訪れる人に特別な時間を届けながら、私たちにコーヒーの魅力を教えてくれるOBSCURA COFFEE ROASTERSの柴佳範さんにお話を伺いました。

Interview by Yusuke Yamanaka / Naoya Seshimo
Text & Edit by Sawaco Ito
Photo by Masanori Kaneshita

“おもしろいこと”を求めて、すべてが始まった

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高校時代から友だちだった3人で始めた、とのことですが、そもそもどうしてお店を始めようと思ったのでしょうか。
柴佳範
(以下、柴)
「おもしろいことをしよう」ということがスタートラインでした。当初はカフェを作ることだけを決めて、どんなカフェにしたいのかを話し合ううちに、深く掘り下げられるものをという想いがあり、その中で僕たちが共通して好きだったコーヒーを軸にしました。なので、初めから絶対にコーヒーに特化しようという意識はなかったです。
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「深く掘り下げる」というのは、お店を長く続けるためにも、自分たちが熱中できるものであったほうがよいからですか?
そうですね。広く浅くというよりも、できることは限られているので、狭く深くしようと思っていました。
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三軒茶屋という土地を選んだのはなぜですか?
メンバーの一人がもともとこのエリア住んでいたことや、感度が高い人たちが集る住宅地であること、あとは、みつけた物件がとてもよかったということですね。「自分だけの時間を過ごせる場所」というコンセプトを体現できる場所との出会いも大きくて、この町に決めました。
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三軒茶屋は、感度が高い方が集るというだけでなく、雰囲気としていいところですよね。
そうですね。若い人と昔から住んでいる人が混在していて、単に洒落ているというイメージよりも、下町風情で親しみがあって、素朴なところが魅力だなと思います。これはお店をやり始めて実感しました。

「コーヒーの世界を知る入り口」そして…。

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今現在、三軒茶屋のエリアにはCafe・Laboratory・Factoryの3店舗、KANDA MANSEIBASHIと合わせて4店舗があり、それぞれがコンセプティブで洗練されたお店づくりをされていると感じます。一貫したこだわりのようなものはありますか。
こだわり…。そうですね、コーヒーはただの飲み物としてだけでなく、文化的な側面もありますよね。たとえばコーヒーを飲みながら本を読んだり音楽を聴いたり、コーヒーとともにある時間は、なぜだか素敵な時間に変わったりする。コーヒーの楽しみ方はひとつではないから、それをもっと広げられるような場所に、というのは、ひとつのコンセプトになっています。
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それぞれの店舗に意識していることはありますか?
Cafeはコーヒーを好きになってもらう、まさに「コーヒーの世界の入り口」というような場所を目指しています。サイフォンで抽出して、1杯のコーヒーが作られていく過程も楽しんでもらえるようにしています。コーヒー以外のメニューも用意して、本を置いていたり、音楽を静かに流していたり…お客さまが自分だけの時間を過ごすことができるように考えています。駅と住宅地の間にあるので、会社に向かう社会人の顔、家に着いて家庭の顔になる前、自分だけの、まるで「圏外」のような空間を提供したいと思っています。
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Laboratoryの母の日をはじめとしたギフト商品も特徴的ですよね。
Laboratoryは、なんとなくの世界観だけでもいいからコーヒーが好きになった人に、ここでさらに中毒になってもらえるような場所です。色んな飲み方や、作られていく過程や、コーヒーにまつわる物事を楽しんで欲しい。母の日は、多肉植物とコーヒーをセットして販売したり、木製の小物入れやポーチなどをプロダクトデザイナーの方と作ったり、毎年色々な提案をしています。今年はアパレルとコラボしてハンカチを作りました。
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敢えてコーヒーを推すわけではなくて。
はい。ギフトは決してコーヒーだけに特化するべきとは思ってなく、意識してテーマを持たせて提案しています。今年企画したハンカチは母の日のプレゼントとして定番アイテムですが、「愛情を包み込む」というテーマで、コーヒー(=愛情)を包んでいます。実は、ギフト系のラインナップはしっかりと手を掛けて提案させてもらっています。
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一方、KANDA MANSEIBASHIは、三軒茶屋のCafeとはまたちがった赴きの、とても素敵なお店でした。
いい物件との出会いは運命的なもので、出会えたことがやっぱり大きいですね。KANDA MANSEIBASHIも、あの物件に惚れ込んだんです。れんが造りの駅の跡地で、現代にある遺跡みたいな建物で…。そんな場所でコーヒー屋さんできるなんて素敵だなと感じています。三軒茶屋と同じスタイルで、地域に根ざして、まずコーヒーを好きになってもらうことを目指しています。

誰かのON / OFFのスイッチになることと、OBSCURA的「日曜の夕方5時」

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Cafeがオープンした、2009年4月当初に目標としていたこと。丸5年が経った今に新しくできた目標などはありますか?
始めたころは、まずは自分たちが楽しめる空間を作ろうと思いました。また、やるからには自己満足で終わらないように、しっかり意識して。あまり店を大きく展開したいわけではなくて、自分たちの感性に合うことを、自分たちなりにやっていきたいと思っています。コーヒーの世界はもっともっと広げられる余地があると思うので、日常の色んな場所で飲んでもらうだとか、楽しんでもらえるシーンを作っていきたいですね。今はまだ限られていると思いますが、広げられたらと思います。
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Cafeが夜23時まで営業していることも、楽しみ方を広げることにつながりますよね。
そうですね。特にCafeは、自分だけの時間を作りやすいように、仕事が終わってから家に帰るまでの時間に寄れるようにと、遅い時間に設定しています。一人でいらっしゃるお客様もけっこう多いんですよ。ゆっくりと長居してもらえたらなと思います。
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このSUNDAY 5pmも、自分なりのON / OFFの切り替えを見つけるヒントだったり、自分だけの時間を過ごしてもらえる場所を紹介することを目指しているので、シンパシーを感じます。柴さんご自身は、どうやって気持ちを切り替えていらっしゃいますか?
そうですね…、その境界はほとんどないかもしれません。はっきりと切り替わるというよりは、ゆるやかに色が変わっていくような感じです。
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自分のお店だから、ということが関係していますか?
仕事で打ち合わせをする相手も、同世代が多いのですが、僕たちくらいの年齢になると、何かを始めたいけど何をしていいかわからないということがなく、意外と自分の武器を持っている人が多いですよね。それなら一緒にやろう、と盛り上がって、もちろん仕事ですが、仲間として楽しんでやれているところが大きいですね。ですから、境界線が曖昧なのかもしれません。そうして出会った仲間とは、今後も切磋琢磨していけるといいなと思っています。
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敢えて切り替えるために、意識的にやっていることはありますか?
意識的に変えたいときは、場所を変えてしまいます。海や山へ、自然と戯れに行きますね。
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では、日曜の夕方5時におすすめの一杯を教えてもらえますか?
難しいですね(笑)。休みの最後の最後、休日が終わる憂鬱さを感じるころには、ずっしりした深めの豆で、ハンドドリップで飲むのがいいかもしれないですね。ブラジル/カッシャンブー農園の豆がおすすめです。OBSCURAでは浅煎りも深煎りも両方用意していますが、浅煎りは酸味があってすっきりしているので、日常的で朝にもパッと飲めるし、深煎りはおやつの時間に、甘いものやちょっと重ためのお菓子と合せるのもおすすめです。コーヒーの面白さは、深煎りと浅煎り、それぞれに違った楽しさがあると思います。

無限に広がる可能性を求め続ける

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柴さんにとって、スペシャルティーコーヒー、あるいは、コーヒーとはどんな存在ですか?
本当に奥が深いですね。日々勉強だと思っています。毎日向き合っている分難しく感じるし、可能性も感じる。その両方で、もっと頑張らないと、と思っていますね。Cafeを始めてからの方が、コーヒーに対してさらにのめり込んでいっている気がします。
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確かに、Cafeを始めたばかりの頃、ここには焙煎機はなかったですよね。サイフォンで淹れるだけでなく、エスプレッソドリンクも増えて。打てる手が増えるというのは、それだけ日々鍛錬されてきた賜物ですよね。
僕たちの場合は、やりながらやれることを増やしているので、今できることを常に精一杯やっています。可能性も難しさも、常に感じつつ。面白いですよ。あとは、時代時代でカッコイイことを目指したいと思っています。たとえば抽出機を色々選べるというのが、最初はカッコイイと思っていたのですが、今考えるとあんまりカッコよくないのかも…と思ったりします(笑)。その時代とかタイミングや流れもありますし、みんなやっているとやりたくないという心理も人間ってあるじゃないですか(笑)。あとは、自分たちのスタイルとして貫くこともあるし。
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最近、カフェの他にもスタンドなど様々なスタイルのお店が増えてきていますが、そのことについてはどうお考えですか?
どんどん広がっていって、コーヒーに興味を持つ人が増えるといいなと思います。競合でありつつもやっぱり仲間だから、頑張って欲しいですし。果たして10年後も愛され続けているのはどういうお店なんだろう、ということを常に考えています。
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今、Cafeにはどんなお客さんが訪れていますか?
地元のお年寄りや、おじさんおばさんからオシャレな若者まで、本当に幅広いです。三軒茶屋の地域に根ざしたコーヒー屋さんを目指しているので、やっぱりこの町の人たちにもっともっと好きになって欲しいです。コーヒー屋という存在は町に根付いて存在すべきだと思うので。うちはちょっと名前がややこしいですが(笑)、単純に「コーヒー屋さん」と呼んでもらえるようになりたいですね。「コーヒー屋さんに行こうか」「コーヒー屋さんで豆買って来て」「あのコーヒー屋さん、どこらへんだっけ?」「あそこの五叉路のところだよ」そんな会話が、家族や地域の方々の中で生まれてくれると嬉しいです。町の靴屋さんや本屋さんのように、「三茶のコーヒー屋さんといえばOBSCURA」と親しまれるようにこれからも努力していきたいですね。

INFORMATION

OBSCURA COFFEE ROASTERS

〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋1-9-16 [MAP]
TEL: 03-3795-6027
FAX: 03-3795-6027
営業時間: 12:00〜23:00
定休日: 毎月第3水曜日
http://www.cafe-obscura.com/

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ブラジル/カッシャンブー農園

休日の終わりを意識する夕方5時を、「じっくりと、自分と向き合える時間」にするために。柴さんがセレクトしてくれたのは、ブラジル・カッシャンブー農園の深煎り豆。ダークチョコレートのようにビターなフレーバーは、とろりとした舌触りも相まって、苦味を感じるのに飲みやすく、冷めるとルビーグレープのような淡い香味を感じます。香ばしい余韻に夜の到来を感じ、革張りのソファに少し深く腰を下ろす…。そんな豊かな時間味わえるコーヒーです。

EDITOR'S POST

「可能性を感じる」という柴さんの言葉が、私の心を捕えます。聞き流してしまうとただ美しいこの言葉が、このとき私にはじつに鈍く重い言葉に感じられました。柴さんのおっしゃった「可能性」は、きっと多くの挑戦をし、難しさに立ち向かい、深遠を覗き、ようやく感じることができた…そんな「可能性」である気がしたのです。そして、その可能性は新たな挑戦への推進力となり、OBSCURA独自の魅力的なサイクルを生んでいるのではないでしょうか。町に根ざした“コーヒー屋さん”として、彼らが感じた多くの可能性をこれからもずっと覗いていきたいです。
by Naoya Seshimo